ランプリール・オクシジェーヌ

洋菓子との出会いと生い立ち

幼少の頃に、自宅近くに当時では珍しい洋菓子の個人店がオープンしたことが、私と洋菓子との運命的な出会いでした。生まれて初めて口にした「おいしい洋菓子」に強く感動した私は、どうしてもそれを自分の手で作りたくて、小学校の低学年頃から、自宅でケーキ作りに没頭しました。当時の洋菓子は「嗜好品の極み」のような位置づけをされており、ホームメイドするなど考えにくい時代でしたから、そんな私が周囲の目には非常に風変わりな子供に映ったようです。

五年生の時、自分でアレンジしたオリジナルのケーキを批評してもらうために、あつかましくも例の自宅近くの洋菓子店に持って行ったことがあります。今考えると大した度胸ですが、それをきっかけとして、中学に上がってからその店のキッチンで職人に混じって勉強をすることを許してもらえたのでした。

自分としては、中学を卒業した段階で職人になることを希望していたのですが、両親の猛烈な反対を受けました。ずいぶん悩んだ私は、当時手伝いをさせてもらっていた洋菓子店のチーフに相談をしました。彼は、「これからの職人は理論的なことをしっかりと勉強した方が良い」という言葉とともに、業界紙に掲載されていた洋菓子専門学校の広告を見せてくれました。しかしその時代、学校は東京に一校しかなく、高校卒業の資格がないと受験すらできないという、当時の私にとっては厳しい条件でした。ですから私は、洋菓子専門学校の受験資格を得るがために高校へ進学しました。

高校に進学した私は、別の洋菓子店でアルバイトを始めました。その店では、退職した焼き物担当の職人さんの仕事を私が引き継ぐことになり、毎朝始発に乗って洋菓子店に入り、焼き物の仕事を済ませてから学校に登校する、という日々がしばらくの間続きました。

そんな高校生活を送った後、いよいよ念願だった東京の洋菓子専門学校に入学するわけですが、両親の反対の根本的な理由は私がこの職業に就くことだったため、受験をする際、両親の理解を得るのに大変苦労しました。お菓子作りに対する自分の情熱の限りを伝え、なんとか説得したことを、今では懐かしく思います。

専門学校に入った私は、ある程度の現場経験があったため、実技の授業に物足りなさを感じたものの、徹底的に教え込まれる「製菓理論」は楽しくてなりませんでした。また、二年間のカリキュラムの中で、その当時としてはほとんど技術を持った職人がいなかった「チョコレートの授業」や「飴細工の授業」を受けられたことは、その後の私にとって大きな収穫であったように思います。また、この学校には留学制度もあり、さほど長い期間ではなかったのですが、パリのルノートル製菓学校とスイスのリッチモンド製菓学校に学び、本場のお菓子と、それを取り巻く環境やカルチャーの違いを勉強することができました。

フーケで学んだ菓子のこと

21歳でフーケに入社し、25歳で商品開発担当責任者になった後、44歳で退職するまでの間、常に商品開発やマーケティング等に従事してきました。30歳頃までは自分の考えた菓子が思うように売れず、精神的に深く落ち込む時期が続きました。

そんな時に社長からよく言われたのは「おまえの創る菓子にはぬくもりが無い」ということでした。若いうちはなかなかその意味が理解できずに苦しみました。今思えば、自分の知識や技術をひけらかすために作った言わば「独りよがりの菓子」だったのだと思います。年齢的に若かったこともあり、「旨い菓子」と「良い菓子」との違いが理解できていなかったのでしょう。と、書きながら、今の自分はきちんと理解できているのかというと、・・・うーん、とうなってしまうのですが。

ランプリールをオープンして

最近では、新しい原材料や技術が次々と紹介され、洋菓子のスタイルも昔と比べ随分と変わってきたように思います。私も企業にいた頃には、時流に取り残されないよう常に新しいものに敏感でした。それは間違いではないのですが、その頃「時流」や「新しさ」に執着している自分に疑問も感じていました。ここ神戸・北町に店を構え、直接お客様と向かい合う中で、その疑問の霧が少しずつ晴れ、「お菓子の本当の役割とは何なのか?」その答えが見えてきたように思います。

ランプリールは、街の洋菓子店とは違い、わざわざ車で来なければならない立地にあります。それでも毎日たくさんのお客様が来てくださいます。そして、何よりも嬉しいことは、車に同乗している方々が、わざわざ車から降りてお店に入ってきてくださることです。子供様はもちろんのこと、お年を召されたおじいちゃんもおばあちゃんも、ご主人様も、全員が少々長めの庭のアプローチを歩きお店に入ってきてくださいます。私が「こんにちわ」と声をかけると、ほとんどの方が笑顔で「こんにちわ」と返してくださいます。皆様、とても良い笑顔で挨拶をしてくれます。そんな時「喜んでくださってる」と実感すると同時に、「人を驚かせ、喜ばせたい!」そんな一心でケーキ作りに励んでいた子供時代と同じ、活き活きとした自分になっていることに驚かされます。きらびやかで、個性の強い「旨いお菓子」もいいけれど、お客様の表情を見ていると、難しいことを考えずに、「美味しいね・・」と言ってくださる「良いお菓子」を創ってゆきたいと、心から思うのです。

オーナーシェフ